現場・実践版 ゆめんちゅ通信 2026年10月号
ゆめんちゅ通信 | 2026年10月号【現場・チーム実践版】

サッカー日本代表のPKと「感情の振り子」
──「殴ればレッド」「閉ざせばシャットダウン」の狭間で

子どもや後輩を教えるのは、本当に大変ですよね。理不尽な反則やずるい相手に直面した時、私たちはどう自分とチームを守ればいいのか? 産業カウンセラーが現場指導の深層を解き明かします。

執筆・監修: 神田 充人(かんだ みつと)/産業カウンセラー・中部大学 非常勤講師
発刊:メンタルヘルスサポート 夢人(ゆめんちゅ)
対象:現場で人を教えるすべての人・若手・中堅社員

指導の葛藤 子どもを教える時って大変ですよね。部活の後輩も、職場の後輩も。

人を育てるって、本当に大変なことです。
我が子に靴の揃え方や宿題を教える時。学生時代、部活動で後輩に基本ステップを教える時。そして今、職場で新入社員や後輩に仕事の段取りを教える時──。

「なんで昨日教えたことが今日できないんだろう?」「どうしてこんな手抜きをしてしまうんだろう?」と、思わず頭を抱えたり、胸の奥がモヤモヤした経験は誰にでもあるはずです。

昔であれば、「ゲンコツ1つ」「雷をドカンと落とす」ことで、恐怖や力関係で無理やり従わせることができた時代もありました。しかし現代では、そんな力任せの制裁は通用しませんし、何より指導する側の心にも深い傷と罪悪感を残してしまいます。

生々しい現実 テレビで観たPKの光景 ──「世の中には、言葉で優しく言っても止められない人がいる」

先日、自宅でサッカー日本代表の国際試合をテレビで観ていたときのことです。思わず胸がざわつく場面がありました。

⚽ 私(神田)がテレビで観た光景
日本にPK(ペナルティキック)のチャンスが訪れた、緊迫の瞬間。
相手チームのある選手がペナルティスポットに近づき、スパイクで芝生を踏み荒らして、キックの邪魔をしようとしているように見えました。
それに気づいた日本の選手たちが駆け寄り、相手選手を小突いたり、力づくで引き離したりして、一触即発の小競り合いになりました。
※特定の国やチーム、選手を批判する意図はまったくありません。勝負の世界では、どの国のどのチームでも起こり得る場面です。ここでは「理不尽な行為に直面したとき、人はどう振る舞うべきか」を考える題材としてご紹介します。

テレビの前で「それはずるいよ!」と、思わず声が出た方もいるかもしれません。

そうなんです。サッカーに限らず、職場でも日常生活でも、きれいごとを抜きにして言えば、平気でルールを破る人や、ずるいやり方で自分を有利にしようとする人は、残念ながら存在します。「やめてくださいね」と優しく言うだけでは、到底止められない理不尽な現実に直面することがあるのです。

🟥 ここで考えてみてください:もしグーで殴ったら?
たとえ相手の行為が明らかなルール違反だったとしても──。
もし日本の選手がカッとなって、相手を「グーで殴った」としたら、何が起きるでしょうか?

審判は迷わず笛を吹き、「一発レッドカード(退場)」を突きつけます。
どれほど相手に非があっても、やってはいけないことをしてしまえば、試合を壊し、すべてを失うのはこちら側なのです。

心理の深層 ハラスメント加害者は「真面目な人」ばかり ── 「感情の振り子」と「心のシャットダウン」の罠

私が産業カウンセラーとしてハラスメントの相談を受ける時、深く胸を突かれる共通点があります。
問題を起こしてしまった方の多くは、根っからの悪人や意地悪な人ではありません。むしろ、「人一倍真面目で、仕事への想いや責任感が誰よりも強い方」なのです。

仕事への想いが熱く強いからこそ、「お客様に迷惑をかけてはいけない」「安全を守らなければならない」と必死になります。しかし、相手が手を抜いたり、ルールを破ったり、期待通りに動いてくれなかった時、その想いは裏切られた痛みとなり、「激しい怒りの反動」へと反転します。
まさに、大きく揺れる「感情の振り子」です。熱意の振り幅が大きい人ほど、うまくいかなかった時の怒りの反動も巨大になってしまうのです。

💥 罠①:感情の爆発(レッドカード)
熱意ゆえに「なんでこんなことも分からないんだ!」「やる気があるのか!」と語気が荒くなり、感情任せに叱責してしまう。相手を追い詰め、自分自身もハラスメント加害者として一発退場(レッドカード)のリスクに晒されます。
🧊 罠②:心のシャットダウン(感情遮断・無関心)
「そんなに感情を振り回されて傷つくなら、もう何も期待しない」と心のスイッチを切り、無関心になる。怒りはしませんが、自分の世界に閉じこもり「後輩がどうなろうと知ったことではない」と放置。これもチームを崩壊させます。

感情の振り子が激しく揺れて爆発するのも苦しい。かといって、痛みを恐れて心を「シャットダウン」しても、冷え切った孤立が待っている──。
「仕事への想いを持ち続けながら、周りとも心を通わせ、本音で語り合えるチームをつくりたい」。それが理想だと分かっていても、生身の感情をそのままぶつけ合っていては、心がすり減って疲弊してしまうのです。

セルフチェック あなたの「感情の振り子」はどちらに揺れやすい? ── 8問タイプ診断

最近1か月の自分を思い浮かべて、「はい」「いいえ」で答えてください。正解・不正解はありません。結果に合わせて、まず読んでほしいメソッドをご案内します。

Q1後輩や部下のミスを見ると、つい語気が強くなってしまう
Q2「どうせ言っても変わらない」と、注意するのをやめたことがある
Q3自分と同じ熱量で取り組まない人を見ると、イライラする
Q4後輩や部下が困っていても、自分から声をかけるのがおっくうだ
Q5叱ったあとで「言いすぎた」と後悔することがよくある
Q6嫌われたくない・揉めたくないので、指摘を飲み込むことが多い
Q7「なんでこんなこともできないの?」と心の中で思うことが多い
Q8最近、仕事で心が動く(嬉しい・悔しい)ことが減ったと感じる

※この診断は、自分の傾向に気づくための簡易チェックで、医学的な診断ではありません。気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続くときは、一人で抱えず、産業医・医療機関・相談窓口にご相談ください。

処方箋 感情をすり減らさずにチームを育てる「4つのプロ技法」

「殴ってレッドカードになる(怒り)」でもなく、「諦めて心をシャットダウンする」でもない。私たちが選ぶべき「第3の道」があります。
メンタルヘルスサポート夢人が体系化した『教え方・教えられ方 体系的マスターハンドブック』から、この難局を乗り越える知恵を抜粋してご紹介します。

感情をすり減らさずにチームを育てる4大プロ技法 体系図
🎨 【図解】感情をすり減らさずにチームを育てる「4大プロ技法」概念マップ
① 左上:期待値アンカリング
深呼吸と6秒の「間」で、怒りの衝動に流されない
② 右上:イエローカード作法
私情で殴らず客観ルールとDESC法で毅然と境界線を引く
③ 左下:人格と行為の完全分離
存在は100%肯定し、手順の修正と10秒フォローで信頼を築く
④ 右下:FACTログ連携
1人で抱え込まず客観事実を記録して組織全体で守る
⚖️ 【中央の天秤】:熱意ゆえの怒り爆発(レッドカード退場)と、痛みを恐れる冷めた諦め(心のシャットダウン・孤立)の両極を抜け出す「第3の道(プロの感情調律)」
💡 各メソッドをクリック(タップ)してください: 背景にある脳科学・心理学研究の詳しい解説と、ハンドブックの該当実践カードが開きます。
メソッド ① | 指導者編
感情の振り子調律法 & 期待値アンカリング
「相手も自分と同じ熱量であるはずだ」という無意識の期待値を手放す
真面目な人が怒りやすい大きな原因の一つは、「相手も自分と同じくらい誠意があるはずだ」という高すぎる期待値です。落差があるから振り子が激しく揺れます。『相手はまだ途上の不完全な人間である』と前提を適正な現在地に置き直す(アンカリング)。カッとなった瞬間は息を深く吐き、6秒間の「間」をとることで、扁桃体ハイジャック(感情の暴走)に流されにくくなります。
🔍 研究・脳科学理論 & ハンドブック CARD 14 を詳しく見る ➔
メソッド ② | 護身術編
イエローカード作法 & 組織的境界線(DESC法)
理不尽な反則に私情で戦うな。審判(客観ルール)とDESC法で毅然と制する
PK荒らしをされた時、選手が殴れば退場ですが、やるべきは「主審(審判=共通ルール)に即座に指し示し、警告(イエローカード)を出させること」です。職場でも同じ。個人の感情で小突き合うのではなく、DESC法(①客観的事実 ➔ ②業務への影響 ➔ ③具体的代替案 ➔ ④選択肢)で感情を交えずに境界線を引き、就業規則や安全規程という「組織の壁」を相手に示します。
🔍 行動科学・アサーション理論 & ハンドブック CARD 24 を詳しく見る ➔
メソッド ③ | 承認理論編
人格と行為の完全分離 & 10秒フォロー
「存在」は100%承認したまま、「作業の手順」だけを淡々と修正する
「ミスした相手=ダメな人間」と捉えると全否定になり怒りが湧きます。また「注意すること=相手を傷つけること」と恐れると、心をシャットダウンしてしまいます。相手の人間性(存在)は『今日も来てくれてありがとう』と無条件で認めつつ、直すべき『作業手順・動作』だけを外科手術のように切り離して指摘。最後は『次は期待してるよ』と10秒フォローを添えることで、指導者も後輩も心を閉ざさずに済みます。
🔍 ロジャーズ・REBT理論 & ハンドブック CARD 12 を詳しく見る ➔
メソッド ④ | チーム防衛編
ずるい相手に対する「FACTログ連携」
1人で抱え込んで説得しようとしない。客観的事実を記録しチームで守る
言葉で優しく言っても通用しない相手に対して、指導者が1人で立ち向かうとエネルギーが枯渇し、心がシャットダウン(燃え尽き)してしまいます。いつ、どこで、誰が、どんな違反行為をしたかを「FACTログ(客観メモ)」として淡々と記録し、上長やチーム全体へエスカレーションして組織的に対処します。孤立無援にならないことこそ最大のプロの護身術です。
🔍 エドモンドソン研究・組織防衛 & ハンドブック CARD 16 を詳しく見る ➔

現場指導・育成・マネジメント 体系的マスターハンドブック

今回ご紹介した4大メソッドは、ハンドブックに収録された知見のごく一部です。
「心理的安全性」「暗黙知の言語化(TWI-JI)」「若手の護身術(事実の分離)」「状況対応リーダーシップ(SL理論)」まで、現場で迷わない全6層・29の実践カードを完全無料公開しています。

📖 ハンドブックWeb版を今すぐ詳しく見る ➔

※全カード拡大ズーム・カルーセル送り・昼夜モード切替対応

同じ10月号のもう一つの版 | 人事・経営者版
🏢 カスハラ対策は、すべての事業主の「法的義務」になりました(2026年10月1日施行)
経営者・人事ご担当者向け。指針が求める5つの措置と、10問の「カスハラ対応度」セルフ診断。ぜひ上司や人事部にもご紹介ください。
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神田 充人 代表

神田 充人 (かんだ みつと)

産業カウンセラー | 中部大学 心理学科 非常勤講師 | メンタルヘルスサポート 夢人(ゆめんちゅ)代表

面談実績3,000名超、実務歴20年以上の産業カウンセラー。「叱れない先輩」と「傷つきたくない後輩」の間で揺れる多くの働く人の声に耳を傾け、愛知・岐阜・三重をはじめ全国の企業でコミュニケーション・育成・メンタルヘルス研修を実施。「情熱を持ちながらも、誰も傷つかない指導の型」を泥臭く現場へ届け続けている。

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